大井学先生に聞く
CCC-2子どものコミュニケーション・チェックリスト

第2回 CCC-2の結果と解釈について

2022.05.23 インタビュー / シリーズ


CCC-2子どものコミュニケーション・チェックリスト(以下、CCC-2)は、英国Pearson社より出版されているThe Children's Communication Checklist Second Editionの日本版です。本シリーズでは、日本版作成者のお一人である大井学先生へのインタビューを紹介してまいります。


第1回では、語用についての理解と、語用を主眼としたコミュニケーションの問題の把握のために、CCC-2がチェックリストという形をとっていることについてお話を伺いました。第2回となる今回は、CCC-2の結果や解釈に焦点を当ててお話を伺います。

大井 学 先生

金沢大学子どものこころの発達研究センター特任教授

日本コミュニケーション障害学会常任理事、機関誌編集委員長、理事長、日本発達心理学会理事、日本特殊教育学会理事等を歴任

CCC-2は、対象となる子どもの身近な人(保護者や先生)がチェックリストに回答した後、検査に携わる専門家がチェックリストの内容を集計・換算することで解釈に繋げます。


-- CCC-2で測っているものについて具体的に教えてください。

大井 CCC-2は「言語の構造的側面」、「語用的側面」、「自閉症児に特徴的な側面」の3つの側面をみることができます。

-- 第1回では、CCC-2は語用能力の評価を主眼にしていると学びましたが、語用的側面とは直接関係しない側面についての評価も行っているのですね。

大井 そうなんです。語用的側面に加え、ふたつの側面をみています。ひとつめの言語の構造的側面では、音声(発音)や文法・意味のような言語障害にかかわる領域を評価しています。音声や文法などにかかわる評価が含まれているというのはちょっとわかりづらいかもしれませんね。でも、CCC-2において、このことはとても重要なのです。

-- なぜとても重要なのでしょうか?

大井 コミュニケーションに問題を抱えている子どもを見ていると、場面に不適切な話し方をするなど語用的側面に問題を抱えている子ども、音声や文法など言語の構造的側面に問題を抱えている子ども、どちらの側面の問題も抱えている子どもなど様々なのです。

-- 語用的側面だけではなく、言語の構造的側面の問題を併せて見るような視点が必要なのですね。

大井 はい。CCC-2では、そのために、「一般コミュニケーション能力:GCC」と「社会的やりとり能力の逸脱群:SIDC」という新しい指標を使用しています。GCCは、語用的側面の領域と言語の構造的側面の領域の評価点合計です。言語障害の可能性が疑われる子どもや、さらなる評価を受ける必要のある子どもをスクリーニングする際の指標として有効な得点です。

-- GCCは、コミュニケーション能力の評価に際し、語用も考慮した総合的な新しい指標なのですね。

大井 私自身も以前は、語用障害と言語障害は別のものだとの認識があったのですが、語用の問題に着目し、GCCという指標を示した原著者のBishop先生は先見の明がある方だと思っております。

-- もう一つの指標である、SIDCについて教えてください。

大井 SIDCは、典型的な特異的言語発達障害児(SLI)の子どもと、偏った語用障害の兆候をもつ子ども(典型的な自閉症児など)を適切に区別するための指標です。

-- 典型的なSLI、自閉症児といいますと?

大井 実際に目にするケースなのですが、言語の構造的側面に問題があっても語用的側面には全く問題がないというSLIや、言語の構造的側面には問題が見られないが、語用的側面に問題をもつという自閉症児がいます。このような子どもが、いわゆる典型的なSLI、典型的な自閉症児と言えるかと思います。

-- 言語の構造的側面と語用的側面のどちらの問題も抱えている子どもがたくさんいるとのお話でしたが…。

大井 そうなんです。典型的なSLIや自閉症児は、言語障害と語用障害の合併状態の両極端に位置する子どもだと考えられます。実態はというと、この両極の間にたくさんの子どもがいて、その把握が難しいのです。Bishop先生は、言語の構造的側面と語用的側面の問題を併せもつ合併状態は連続的なスペクトラムであるとおっしゃっています。SIDCという評価指標の分布をみるとこの両極の間の存在がスペクトラムな状態であることが明らかです。

SIDC(社会的やりとり能力の逸脱群)の分布
  • SIDC値の分布は、ASD群はマイナス寄り、LI群はプラス寄りに偏っている。
  • 値の分布は、ASD群、LI群で連続している。

-- GCC、SIDCという指標で、語用の問題を見逃さないように工夫されているのですね。言語の構造的側面がCCC-2の評価において重要な意味をもつと先生がおっしゃった意味が理解できました。さて、これまでのお話の中にも自閉症に関することが出てきましたが、CCC-2の、自閉症児に特徴的な側面に関する評価について教えてください。

大井 自閉症児に特徴的な側面では、自閉症の症状の一部を評価しています。実は語用障害は、自閉スペクトラム症で最も典型的に表れるといわれています。そのため、自閉症の症状の一部で例えば「社会的関係」や「興味関心」などを、自閉症児に特徴的な領域として評価しているのです。CCC-2では、自閉スペクトラム症の可能性も示唆できるようになっています。

-- CCC-2は語用の問題に着目しながら、言語障害の可能性のスクリーニングや、自閉症の示唆など、様々な結果を読み取ることができるのですね。最後に、結果を利用する際の留意点を教えてください。

大井 CCC-2はとても精度が高い検査ですが、確定的な診断名を判断するためには、言語聴覚士や公認心理師などの専門家による掘り下げた検査の実施や観察などが必要だということを忘れないでいただきたいと思います。

-- CCC-2の結果の意味・解釈についてよく理解できました。お話しいただきありがとうございました。

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