大井学先生に聞く
CCC-2子どものコミュニケーション・チェックリスト

第1回 CCC-2の目的と実施について

2022.03.01 インタビュー / シリーズ


CCC-2子どものコミュニケーション・チェックリスト(以下、CCC-2)は、英国Pearson社より出版されているThe Children's Communication Checklist Second Editionの日本版です。本シリーズでは、日本版作成者のお一人である大井学先生へのインタビューを紹介してまいります。


大井 学 先生

金沢大学子どものこころの発達研究センター特任教授

日本コミュニケーション障害学会常任理事、機関誌編集委員長、理事長、日本発達心理学会理事、日本特殊教育学会理事等を歴任

-- CCC-2とはどのような検査ですか

大井 CCC-2は語用能力を評価することを主な目的として開発された検査です。日本だけではなく国際的な観点からみても、語用能力を短時間で客観的に評価する検査はほぼ唯一だと思います。語用能力とは、耳慣れないかもしれませんが、社会的にことばを使って人とコミュニケーションする際の言語の運用能力のことです。

-- 語用について具体的な例をいくつか教えてください

大井 わかりやすいのは、文字通りの意味でなくやりとりされる言語です。非字義言語というのですが、比喩や皮肉です。比喩では、考え方が「かたい人」を「身体がかたい人」と思ってしまう、皮肉では、「食事のおかずが一品なのに、今日はたくさんのおかずがあるわね」と言うと面白がるなどです。その他、非字義言語には間接依頼というのもあり、「この蓋あけられる?」はあけてほしいことだと言っているなどです。 また、会話の仕方も語用能力に含まれます。「一方的にしゃべり続け、止めることができない」などがそれにあたります。

語用例1
語用例2

-- 語用能力といっても、いろいろな種類があるのですね

大井 はい。実は語用能力にはもっといろいろな種類があるのです。CCC-2では、先ほどの例ですと、非字義言語の比喩や皮肉、会話の仕方などをカバーしています。

-- 語用能力にはいろいろな種類があるということは、何となく理解できましたが、なぜ今まで語用能力に関する検査がなかったのでしょうか

大井 語用の問題は、聞いていてもわからないことが多いのです。例えば、相手が興味をもたないようなことを一方的に話し続ける子どもが、表面的に非常に上手に会話をしているケースなどは、すぐにはわからないし、見逃してしまうのです。話をしていて、何となく変だな、状況に合わせた会話ではないなという感じがありながらも、聞き手は何が問題なのか気づかなかったり、わからないまま会話が進むのです。

-- ある程度、会話が進まないと気づかないのですね

大井 そうなんです。かなり長い時間をかけてゆっくりと会話してみる、もしくは日常的に会話の経験を交わしているという状況でないと、語用的側面を問題点として把握することはなかなかできません。語用の問題に注目しながらも、短時間で客観的に評価することが難しく、検査がなかったのです。

-- では、CCC-2ではどのような方法で語用能力を測っているのですか

大井 保護者や先生など普段子どもとよく会話をしている人に、チェックリストを用いて、子どもの日頃の様子を答えてもらいます。チェック項目は「相手が興味のないことを一方的に話し続けますか」等、一つ一つが非常に具体的なコミュニケーション行動の記述になっており、保護者や先生がチェックするのに苦労されないよう、わかりやすい表現となっています。さらにチェックの仕方も毎日、しばしば等、頻度も併せて把握することで語用障害の可能性をみていきます。

-- 子どもに身近な方で、接する機会の多い方でないと答えられない内容なのですね

大井 そうなんです。相談や診察などの限られた時間で子どもと話していてもすぐにはわからない内容です。CCC-2のチェックリストに事前に答えてもらうことで、これまで我々が短時間で把握することができずに苦労していた語用の問題の特定が可能になりました。さらに、語用の問題の見逃しがなくなり、コミュニケーションの評価に客観的指標として語用の問題を示すことができるようになったのです。

-- チェックに際し、身近といわれる方が、子どものことをよく見せるために意図的な答えをしたり、よくわからない質問に答えていなかったりなど、回答の仕方にバラツキがある場合などが考えられると思うのですが

大井 CCC-2は標準化された検査ですから、チェック項目に対して予防的措置が考慮されています。チェックリストは70の項目から構成されているのですが、そのうち50がネガティブ項目(弱み)、20がポジティブ項目(強み)といわれる項目で構成されています。ネガティブ項目とポジティブ項目の整合性を確認することで、検査としての信頼性を示しています。

-- ネガティブ項目、ポジティブ項目、信頼性とは?

大井 ネガティブ項目は、「問題と思われる行動をしていますか?」という質問です。ポジティブ項目では、ネガティブ項目内の同じような事柄をポジティブな観点から「こういうことができますか?」という項目にしています。整合性チェックではネガティブ項目とポジティブ項目の答え方に一貫性があるかをチェックしています。一貫性のないデータは信頼性がなく、チェックリストの答えかたに問題があったかもということです。CCC-2では、このような方法で信頼性のあるデータを利用して、評価に繋げてもらうよう工夫が施されています。

-- 語用の問題がどのようなものか、CCC-2がチェックリストという形で語用の問題を短時間で測れるようになったことについてお話しいただきありがとうございました。


《学会発表のご案内》

「語用障害の特定とCCC-2子どものコミュニケーション・チェックリストの活用」
発表者:大井 学 先生

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