初めて特別支援教育を学ぶ学生・教職員・市民を読者に想定して編集された本書は、2000(平成12)年12月に刊行された鮫島宗弘監修『障害理解への招待』日本文化科学社の趣旨・理念を受け継ぎつつも、2007(平成19)年度より本格実施された特別支援教育のシステムやインクルージョン・特別ニーズ教育などの国際的動向の進展に合わせて内容・執筆者を一新し、東京学芸大学総合教育科学系特別支援科学講座の責任編集により新規に出版されるものである。
さて前書の監修にあたられた故鮫島宗弘先生(当時、東京学芸大学教授・大学院博士課程講座主任)は、その「まえがき」において次のように述べておられる。今日においても重要なご指摘であるので一部抜粋する。
「“『人工視力』米で成功”というニュース報道が目に飛び込んできた。遂に実現したのかと心が震えた。……米国の研究グループは、30年間かけて実現にまでこぎつけた。それを支えていたのは、『見えない』状態を『見える』ようにするというドラスティックな転換に向けての情熱と執着であったのであろう。人工視力の開発が果たした貢献は計り知れないものがある。……人工視力の例にみられるように、近年、障害と障害者の問題は国内外において大きな関心を集め、それにかかわる研究と実践の諸領域や関係者数も急速に拡大発展している。障害と障害者の問題は、かつてのようにごく一部の人が取り組む“特殊”な問題ではなく、“普遍的(ユニヴァーサル)”なものへと大きく変化してきているのである。障害と障害者問題の世界が、じつに興味深く、そして21世紀に大きく発展していく可能性に満ちたものであることを知っていただくために、本書を編集した」。
障害と障害者の問題は「“特殊”な問題ではなく、“普遍的(ユニヴァーサル)”なもの」であり、また「21世紀に大きく発展していく可能性に満ちたものであること」という鮫島先生のご指摘は、まさに正鵠を射たものである。
すなわち前書から7年しか経過していないが、障害と障害者問題に対応する学問と実践は、1.国内では特殊教育から特別支援教育へとシステムを変更し、国際的には特別ニーズ教育や障害者権利条約に示されるインクルージョンの方向に展開、2.多様な特別ニーズを有する子ども・青年・成人の生涯発達支援というように支援対象の枠組みの拡充や教育・福祉・医療・就労等の関係機関との連携・協働によるライフステージに応じた支援ネットワークの構築、3.IT・脳科学・認知神経科学・障害科学・ユニヴァーサルデザインなどの新科学技術の発展などに端的に示されるように、ご指摘された「普遍的(ユニヴァーサル)」な方向において大きな変化を遂げているのである。
そうした変化・動向を踏まえて本書のタイトルを『インクルージョン時代の障害理解と生涯発達支援』とし、生理・心理、保育・早期発達支援、教育、移行支援・福祉、学齢・青年・成人期の実践的課題という5つの視点から、生涯発達支援についての簡潔な整理を行うことに努めた。
限られたページ数のなかで最善を尽くしたつもりであるが、割愛せざるを得なかった領域や十分に説明しきれなかった内容も数多く残されている。たとえば近年は、アスペルガー障害や高機能自閉症と診断された本人・当事者の手記が数多く出版され、本人・当事者が抱えている特有の困難・ニーズについて次第に関心が向けられつつあるが、そうした問題への言及は不十分である。またアジアや第三世界の障害児教育への国際協力開発も重要な課題であるがふれることができずに終わった。
障害問題を取り巻く状況は時々刻々と変化しており、新たな課題が提示され、新しい考え方や技術が生まれている。常に最新の動向や知見に目を向け、読者の方々のニーズに応えるべく、本書も機会をおって改訂を行っていきたいと考えている。読者の方々からの忌憚のないご検討、ご批判をお願い申し上げる。
なおこの間、関連法制の制定・改定(教育基本法・学校教育法・教育職員免許法・障害者自立支援法・発達障害者支援法等)が相次ぎ、事前に集っていた本書の原稿の修正を何度も余儀なくされてしまったために、本書の刊行が予定よりも大幅に遅れてしまった。半ばやむを得ない事態とはいえ、早くから原稿を寄せていただいた執筆者の方々にはお詫び申し上げる。
2007年7月
編集代表 高橋 智
編集担当 澤 隆史
藤野 博
加瀬 進
|